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審査員のインタビュー・メッセージ
<プロフィール>
1970年、福岡県生まれ。1996年、東京工業大学大学院修了後、山本理顕設計工場入社。最後に担当した北京の大規模プロジェクト「建外SOHO」がきっかけとなり、2004年、北京にてSAKO建築設計工社を設立。同年、文化庁派遣芸術家在外研修員として米国コロンビア大学客員研究員。主な作品に「上海ポプラ4」「北京ラチス」「北京バンプス」。主な受賞に2008年グッドデザイン賞(金沢ビーンズ)、EuroShop Retail Design Awards 2009 One of Three Best Stores Worldwide(杭州ロマンチシズム2)。JCDデザインアワードを7年連続受賞中。また中国においても、2008年鷹牌陶瓷杯ベストデザイナーアワード、2009年金盤奨商業部門最優秀賞、2010年国際設計芸術成就賞など受賞多数。
<審査委員からのメッセージ>
●中国に進出して成功する方法
 中国でのビジネスは、一般的には、相手の懐に入り込んで身内のように密な関係を作って、直で発注を取るのが秘訣だといわれる。つまりその方法は、接待型ビジネスということでもある。しかし私は、もっとデザインそのものに力を集中したいので、そういう方法はとっていない。その代わり、自分の業績や考えを中国国内のメディアに積極的に取り上げてもらって、あえて広く浅く浸透するように心がけている。
 中国の企業を相手にするには、それなりの難しさがある。デザイン(作品)の優位性だけでは、中国の市場では成功できない。事実として、デザイン業に対する対価の平均は、受け入れがたく安いレベルにある。その安いレベルの仕事を受け入れてしまうと、決して良い仕事はできない。なぜなら、そのような安いレベルの市場では、中国のデザイン企業が山のようにあるから。そこで私は、やはり日系の企業として、現地企業とはまったく違うポジションをとることにした。
 具体的には、商談の最初のほうで、デザイン料などの条件面の話をして、それでも私にやってほしいと言ってくれる相手の仕事のみをうけるようにしている。もちろんそれでも、「取りっぱぐれ=債権回収不能」案件も多い。4つに1つぐらいの比率で、支払いが滞る危険性がある。だから、経営者としては、そのような債権回収不能リスクも見越した価格設定をしておく必要がある。
 中国の商習慣に慣れるのは、本当に大変だ。大企業であっても、経理担当者は「払わないのは良いことだ」というメンタリティでいる。 中国の商習慣では、プロジェクトの品質そのものには満足していても、あわよくばその対価を払わないで済まそうとする。契約書の締結や文言の選び方などは、日本よりもはるかに厳しくやるのだが、それでも書類は単なる書類、という扱いになることも多い。
 しかし、対価を「払わない」習慣は、別に日本人が相手だから、ということではない。中国人同士でも「払わない」のだ。おそらく背景には、多民族国家であるがゆえに容易には相手を信用できないというメンタリティがあるのだと思う。「人脈」を重視するのも、同じ理由だと思う。
 私の語学力は、ほとんど中国語が理解できるレベルにあるが、会議では、あえて中国語を話さないことが多い。そうでないと、後々、あらゆる中国人クライアントから直接携帯電話に電話がかかってきて、その対応だけに時間を取られてしまう。それに付き合っていては、仕事に集中できなくなってしまう。

●それでも中国に進出する理由
 しかし、それほどの苦難が待ち受けているとしても、特に若いデザイナーは中国には進出すべきだと思う。日本でのビジネスに比べれば、リスクは何倍、対価は何分の一かもしれない。しかし、チャンスは数倍、さらに1つのプロジェクトの規模は数十倍から数百倍のものもあるからだ。今私が実際にやっているプロジェクトの一例でいえば、たとえば住宅1万戸、70万平米の住宅開発のプロジェクトがある。まさに街を1つまるごとつくるような仕事だ。このような規模の仕事を日本で実現するのは、もはや不可能だが、中国でなら、この規模の仕事が、まだまだ続いていく。
 中国ではグラフィックデザインなどの2次元設計(平面設計)の分野は、対価がとても低く、しかも創造性に乏しいというのが率直な感想だ。家具デザインの領域も、知的財産権保護の意識が著しく低いので、日本人デザイナーが進出しても、苦戦するかもしれない。
 一方、不動産がからむ事業は、事業規模が大きいため、デザインの対価が多少高くなっても、他で帳尻を合わせることができるため、外国人デザイナーに依頼されやすい。また最近では、インテリア・デザインの使用権を一括で買い取ってくれる例もでている。店舗デザインなどを他に真似されたくないと考えるクライアントも徐々に出てきているからだ。
 日本人デザイナーとして、中国に進出するのであれば、やはり表現者としてのアピールの場ととらえなければ、進出の意味がないと思う。だから私の事務所は、設計者のほぼ全員が日本人である。単にビジネスとして捉えるならば、日本国内で仕事をしているほうが無難だろうし、あるいは現地で人件費の安い中国人スタッフを雇い、安い単価の仕事でもたくさん回せばよい。しかし、それでは中国に進出する意味がないと私は思う。
 私は、1つ1つの仕事の「主題」を最大限に際立たせることに注力している。エッジを効かせるデザインにするほうが、依頼者の評価も高い。私の場合は、建外SOHOの仕事が大きなステップになった。受けた仕事は、恥ずかしくないレベルに仕上げるまで、がんばりとおすことが必要だ。

●どんな人が適するか(審査基準について)
 中国語が話せるかどうか、は、あまり関係ない。むしろ言葉が話せなくても、相手とコミュニケーションをとれる力がある人がよい。職人気質の人は中国には向かないと思う。
 中国人の自己アピールの誇大広告ぶりはすごい。建築の分野でも、たとえばスタディ模型などは使わず、すべてパワーポイントと、印象的なパースや動画でアピールする。そういう人たちに囲まれた環境で、なぜ自分のアイデアが他の人のものより良いと思うのか、を自己主張できる人でないと、仕事にならない。中国人のクライアントからの要求もストレートだ。口先では「~大先生」と呼ぶのに、デザインの変更要求などに関しては全く遠慮がない。バランスのよくない変更要求をしてくることも多いので、時にはクライアント相手でも怒るぐらいの姿勢で臨まないとダメだと思う。
 鄧小平が言った「先富論」はまさしく今の中国に当てはまると思う。つまり、中国という国が全体として底上げしてゆくにはたいへん長い時間がかかるが、ほんの一握りの人でもいいので、先に良い生活を手に入れていけば、その成功者を見て他の大勢が同じ方向にがんばってゆくようになる。社会全体がそういう構造で出来ている国ということだ。だから、日本人デザイナーは、その一握りの市場でまず成功することが大事だと思う。それがやがて大きな波及効果を生んでゆくからだ。
 商談は、無理に英語を使う必要はない。相手も英語をよく理解していないし、通訳者にとっても面倒が増えるだけだからだ。日本語でしっかり説明し、1人1人に通訳者をつけて商談するのが良いだろう。その際、独りよがりな日本語表現しかできない説明だと、通訳者が適切な中国語に翻訳してもらえないので、注意が必要だ。だれにでも分かる平易な表現で自己アピールできる人が良いだろう。また、中国人の通訳者は、外来語が苦手だ。だから日本語で説明するときも、外来語ばかりの説明では、通訳者が理解してくれない危険がある。
 12月の商談会では、相手にとっての具体的メリットをしっかり説明できないと。商談は成立しにくいだろう。つまり「私のデザインを起用すれば、あなたの利益に結びつく」とはっきり言えることが重要だ。自分のこれまでの実績を説明する際も、その事業規模や成果をはっきりと明記することが重要だ。それぐらいの大きな規模の仕事を任せることができるデザイナーなんだと理解させることが、自分の価値を高めるからだ。
 実際の商談では、「デザイナーを誰にするか」というパーツだけが抜けていて、後はもうフレームワークができている、といようなプロジェクトがちょうどよく見つかるとよい。そういう仕事なら、デザインにきちんとした対価を支払ってくれる可能性が高いからだ。初期のビジネスモデルから募っているようなプロジェクトだと、きちんとした対価が支払われない可能性がある。

●応募者へのメッセージ
12月の講演では、商談の後押しになるような内容をお話しするつもりだ。具体的には「日本人デザイナーの中国における価値とは」という内 容を伝えたい。
 北京オリンピックでは、国家の威信をかけた巨大建築物のほとんどすべてが、外国人によって設計された。中国人にはそれでも良いと考える開放的な気質がある。むしろ、外国人の知恵を借りて設計された建築物を実際に完成させた能力こそが現在の中国の実力と考える。中国が世界の建築の実験場になっているという面は事実だが、同時に都市環境をつくることに対して責任を持つ、という態度をしっかり示すことが、中国人に受け入れられるポイントだ。つまり、どこの国の誰がデザインしたとしても、それが中国にあれば(中国発であれば)、中国のものだ、という意味だ。そのようにして中国のデザイン業界に貢献する、というくらいの姿勢を見せることが、商談成立の鍵だと思う。
 若くして実力があるのに、日本国内で良い仕事がないデザイナーは、ぜひ中国に進出すべきだ。「中国ビジネスは難しい」と周囲の人に言われて、先入観ができてしまっているように思う。ネガティブな情報があるというだけで、なにも行動を起こさなければ、それまでだ。まずはリアルな中国を肌身で感じてから判断すればいい。日本から飛行機でわずか2~3時間のところに、世界の成長エンジンを支える国がある。それだけでも日本人デザイナーは有利な立場にある。自分の能力に優位性がある、と信じるなら、日本国内に留まっていてはもったいないと思う。
 また、中国で成功すれば、その実績が世界へのゲートウェイにもなる。私の場合も、中国での成功をみたイランの富豪から依頼を受けて、別荘をテヘランにつくっている。その他にも、スペインやモンゴル、韓国からの仕事も完成させた。世界中の人が中国でのビジネスに注目している。

 
迫 慶一郎


※1迫慶一郎さんは、12月の商談会において、原研哉さんと日本を代表するデザイナーの一人として基調講演をしていただく予定です。